お廻りさんと姉が帰ってきた。お巡りさんは、母に「確かあの柳行李と皮のトランクに
良い物ばかりまとめて押入れに仕舞ってあったと云っとんしゃったですけど、その事を
誰かに話した事は有りますか・・・？」母は、あっ！と思った「そう云えば何人かの人に
そんな話をした事有りました・・・。疎開をする時、荷物を纏めるのに良い物ばかりを
纏めて皮のトランクと柳行李に纏めて入れて、その後ズ～～ト忙しくて、其の侭にして
あるんじゃ！って云った事ありますね！」
　　　　　　　　　　
そうですか、それは、誰と誰と誰か覚えていますか？」母は、困った、話の流れの中で
そんな話をしたので、特に誰に話したかは特定出来ない。又、そんな話をしたのは、
近所の人達である。ご近所の人の中にそんな疑いの掛る様な人は誰もいない！と思っていた。
「いや、良くは覚えて無いんです・・・。」「そ～ですか、そう言う内々の事は今後
人には話さん方がええですよ！今、世の中、てーへん（大変）な時ですからな・・・。

空き巣、引ったくり、スリ、置き引き・・等は日常茶飯事ですからね！」「はい！」
母は、小さくなっていた。迂闊だったと思った！でも、何とか獲られた物は、返って
きて欲しかった。「これ等の着物が無いと農家の人達に食料と物々交換して貰えんので・・・、
子供達を育てる為の食料が配給だけでは、 栄養失調になって仕舞うので・・・。
何とか見つかります様にお願いします。」母は、 必死に頭を下げた。

その後、何度も警察に呼ばれたが、この時代盗まれた物は、殆ど返ってこなかったのである・・・。